informationコラム
2022年 4 月より成人年齢が「 18 歳」に引き下げへ、労務管理はどう変わるか?
~2020 年 4 月の改正への対応も併せて考える必要 が!~
改正民法の施行により、2022年 4月から成人年齢が18 歳に引き下げられます。 この影響で、2022年4月1日以降、18 歳以上 20 歳未満に方には従来「20歳から」とされていた一部の権利が認められることになりますが、労働分野ではどのような変化があるのでしょうか。 18 歳成人に伴い、労務管理上、企業として留意すべきことを考えてみましょう。あわせて、 2020年4月に施行された改正民法では、消滅時効や保証、法定利率など大幅に改正されています。この改正も、労務管理へはどんな影響を与えているかも見直してみたいと思います。
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【2022 年 4 月施行の改正民法のポイント】
民法が定める成年年齢には、① 一人で有効な契約をすることができる年齢という意味と、 ② 父母の親権に服さなくなる年齢という意味があります。 未成年者が契約を締結するには父母の同意が必要であり、同意なくして締結した契約は、後から取り消すことができます。また、父母は、未成年者の監護(監督保護)及び教育をする義務を負います。
民法が定める成年年齢を18 歳に引き下げると、 18 歳に達した者は、一人で有効な契約をすることができ、また、父母の親権に服さなくなることとなります。
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1.18 歳成人に伴い、アルバイト採用時の「保護者の同意」を見直す動きが
今まで、20 歳未満の未成年を雇い入れる際、同意書に保護者のサインを求める企業は多い と思います。これは、労働契約も「契約」の一種であり、民法上、未成年者が何かしらの契約を成すためには親権者等の同
意が必要とされているから です。 また、万が一労使トラブルが生じた際にも、未成年である労働者とのやり取りの中では保護者も交えた話し合いが必要となることもあります。そのようなケースを想定し、あらかじめ労働契約の内容を保護者と共有し、同意を得ておく方が、やり取りがスム ーズに進むと考えられます。そんな中、今回の改正で 成人年齢 が 引き上げ られたことで 、 2022 年 4 月以降は 18 歳以上 20 歳未満について保護者の同意を求めないこととする動きが出ています。
一方で、改正民法の施行に関わらず、引き続き20 歳未満の労働者には保護者の同意を求めようとする企業もあるようです。確かに、法律によって成人年齢が引き下げられたとしても、 18 、 19 歳であれば多くがまだ学生で保護者の支援によって生活している 等、成人扱いをすることが妥当とは言い難い実態があります。皆さんの会社でも、どのような方針を打ち出すか検討しておく必要があります。
2.労働基準法における未成年者の扱いを理解しておく
改正民法施行以降も、18 歳以上 20 歳未満の新たに成人となる労働者の働き方について、変更となる点はありません。なぜなら、 労働基準法上、雇用や労働条件に 関わるあらゆる保護規定は「年少者(満 18 歳未満の者)」について設けられており、広く「未成年(満 20 歳未満の者)」を対象とするものではない からです。民法における未成年者は、今回の改正前までは 20 歳未満の人を指していましたが、 労働基準法では 次のように年齢を区切っています。
①年少者・・・満18 歳未満の者
②児童・・・満1 5 歳に達した後、最初の 3 月 31 日が終了するまでの者
※中学を卒業するまでの人を、労働基準法では「児童」と定義しています。また、 18 歳に達すれば、大人(成人)と同じ扱いになります。
年少者や児童に対する制限としては他に労働時間の扱いがあります。例えば、原則として年少者に対しては、
①変形労働時間( 1 ヶ月変形やフレックスタイム制など)
②労使協定(いわゆる 36 協定)による時間外・休日労働
③法定労働時間の特例(週 44 時間労働)
④休憩時間の特例、が適用されません。
3.若年の労働者にも「労働契約を締結する当時者であること」への自覚を促す
「保護者の同意」に関しては、企業におけ
る検討事項となりますが、 同意の要・不要に関わらず、労働者
本人に「労働契約を締結すること」への自覚をもたらせるような工夫ができるとよい と思います。労働契約のルールや職場のルール等について本人に対して丁寧に説明する、細かなことでも労使が対等に話し合いや相談ができる体制を作る等、できることに取り組むとよいでしょう。会社側の取り組みや姿勢に応じて、労働者自身が 「学生アルバイトだから」と甘えることなく、自覚と責任をもって仕事に取り組めるようになるはずです。
【2020 年 4 月施行の改正民法による労務管理への影響】
2017年民法改正法が成立し、 2020 年 4 月から 消滅時効 や保証、法定利率などの改正が行われた改正民法が施行されていますが、この改正では、労務管理にどのような影響を与えているか、対応はできているか考えてみましょう。
1.退職の申出とその効力 ~民法改正により退職可能期間が変更に~
2020年 4 月 1 日の民法改正により、労働者からの解約の申し入れの場合、 2 週間前までに申し出れば正社員であっても会社を辞められることになりました。 「えっ?今までも 2 週間前でしょう?」と思われた方も多いのではないでしょうか。実は、改正前は、正社員が「会社を辞めたい」と申し出た場合「 2 週間前までに申し出れば いつでも辞められる 」とは限りませんでした。
この誤解は、次の条文が原因だと思われます。
「民法627 条第 1 項
当事者が雇用の期間を定めなかったときは、各当事者は、いつでも解約の申し入れをすることができる。この場合において、雇用は、 解約の申し入れの日から 2 週間を経過する ことによって終了する。」
この条文だけを見るとそう思うかもしれませんが、627 条には第 2 項があります 。
「民法627 条第 2 項 (改正前)
期間によって報酬を定めた場合には、解約の申し入れは、次期以降についてすることができる。ただし、その解約の申し入れは、当期の前半にしなければならない。」
改正前の民法では、給与計算期間の前半に退職の意思表示をすれば、その計算期間の末日をもって労働契約が終了になるといっている のです 。
例えば、1 日から 31 日までの給与計算期間だった場合、 1 月 1 日から 15 日までに社員から退職の意思表示がされると、 1 月月末で終了します(つまり会社を辞められます)が、 意思表示が 1 月 16 日から月末までにされた場合、労働契約の終了は 2 月末日となり、 2 週間以上になっていた のです。ところが、2020 年 4 月 1 日に施行された改正民法では、以下の通りに 変更されました。
「民法627 条第 2 項 (改正後)
期間によって報酬を定めた場合には、使用者からの解約の申し入れ は、次期以降についてすることができる。ただし、その解約の申し入れは、当期の前半にしなければならない。」
「あれ、変わらないんじゃない?」と思われたかもしれませんが、「使用者からの解約の申し入れ」と限定されたことが大きく異なる点 です。 よって、 労働者からの解約の申し入れは、改正 627 条第 2 項は 適用されない ことになります。労働者からの解約の申し入れは、原則の 627 条第 1 項が適用になり、 2 週間前に申し入れれば退職できることになったのです。
■就業規則との関係
会社では、就業規則に退職の申出に関する定めをしていますが、多くの場合退職の申出は 1 か月程度前に申し出ることとしているようです。これを機に就業規則を変更する必要はありませんが、社員が会社を辞めるという意思を伝えてきた場合(いわゆる合意退職ではなく 、社員からの一方的解除である 「 辞職」の場合 )、規則上「 30 日前」がルールであっても辞職を伝えてきた社員を 30 日間在籍させるのは困難と考えたほうがよさそう です。ただし、 労使双方の合意形成に基づく 「合意退職」の場合はこの規定は適応されない ので、社内ルールとして合意退職の申出を 1 か月前に行う旨の規定があっても 構いません。 この場合においても、会社が圧力をかけて無理やり合意形成を行うことはできないので注意してください。
2.未払賃金が請求できる期間などが延長されています
2020年 4 月 1 日以降に支払期間が到来する全ての労働者の賃金請求権の消滅時効期間 を賃金支払期日から5 年(これまでは 2 年)に延長しつつ、 当分の間はその期間は 3 年 とされています。なお、退職金請求権(現行 5 年)などの消滅時効期間などは変更されていません。
※賃金請求権の時効については、民法改正に伴い直ちに5 年と延長されるものではなか ったものの、 5 年経過後においては原則の 5 年とするべきとの検討も踏まえ、 今のうちから未払賃金を発生させないような労務管理が必要 となります。
【時効期間延長の対象】
金品の返還(労基法第 23 条、賃金の請求に限る) 、賃金の支払(労基法第 24 条)、非常時払(労基法第25 条) 、休業手当(労基法第 26 条)、出来高払制の保障級(労基法第 27 条)、時間外、休日労働等に対する割増賃金(労基法第37 条)、年次有給休暇中の賃金(労基法第39 条第 9 項)、未成年者の賃金(労基法第 59 条)
(2)賃金台帳などの記録の保存期間(労基法第 109 条)
事業者が保存すべき賃金台帳などの記録の保存期間について、5 年に延長しつつ、当分の間はその期間は 3 年 とされています。また、以下の②⑥⑦⑧の記録に関する賃金の支払期日が記録の完結の日などより遅い場合には、当該支払期日が記録の保存期間の起算日となることが明確化されています。
◆保存期間延長の対象
①労働者名簿
②賃金台帳
③雇入れに関する書類:雇入決定関係書類、契約書、労働条件通知書、履歴書など
④解雇に関する書類:解雇決定関係書類、予告手当または退職手当の領収書など
⑤災害補償に関する書類:診断書、補償の支払、領収関係書類など
⑥賃金に関する書類:賃金決定関係書類、昇給減給関係書類
⑦その他の労働関係に:出勤簿、タイムカードなどの記録、 労使協定の協定書、各種許認可書、関する重要な書類 始業・終業など労働時間の記録に関する書類、退職関係書類など
⑧労働基準法施行規則・労働時間等設定改善法施行規則で保存期間が定められている記録
※起算日の明確化を行う記録は、このうち賃金の支払いに関するもの に限ります。
(3)付加金の請求期間(労基法第114 条)
2020 年 4 月 1 日以降に、 割増賃金等の支払がされなかったなどの違反があった場合、 付加金※ を請求できる期間を 5 年(これまでは 2 年)に延長しつつ、 当分の間はその期間は 3 年 とされています。
※付加金とは、 裁判所が、労働者の請求により、事業主に対して未払賃金に加えて支払いを命じることができるもの
◆付加金制度の対象
・解雇予告手当(労基法第 20 条第 1 項) ・休業手当(労基法第 26 条)
・割増賃金(労基法第 37 条) ・ 年次有給休暇中の賃金(労基法 第 39 条第 9 項)
( 4 )年次有給休暇の請求権の時効は今まで通り
年次有給休暇の請求権(2 年)についても、民法が改正されたことに伴い、時効を延長すべきかの議論が行われましたが、消滅時効 2 年を維持する方向でまとまりました。